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第112回
2019年 1月7日更新

“器”の器は大きい


器の力

 古(いにしえ)の時代から、食と器は切っても切れない関係だ。1300年前の奈良時代は、調味料を使い始め、豪華食材を使った数々のお料理が登場する記録から、美食の始まりとされる。たとえば、鴨とセリの汁や鹿肉の塩辛、生ガキ、干しタコ、車エビの塩焼きなどだ。
それらを器に盛りつけたり、時に蓮の葉を器代わりにして美しく盛りつけたり、目でも楽しんでいたことが万葉集からもうかがえる。つまり、美食のはじまりと同時に、舌で味わうだけでなく、器に盛って目でも楽しみ味わっていたことになる。器の力や役割は現代と変わらないことに驚く。

器の進化

 その後、器は工芸の世界で発展していく。言わずもがな、漆器や陶器などが日本各地で、それぞれの伝統を継続させている。一方で、食やライフスタイルの多様化とともに、日常の器の在り方は多彩な変化も続けている。
 最近のトレンドといえば、器にもeco(エコ)=環境に優しいという点があげられる。
使わなくなった食器を役立てようとフリーマーケットで売買したり、インターネットの掲示板などを通じて、無料で使いたい人にお譲りしたり、リサイクルの取り組みもみられるようになった。

優しい器

 器の作り手にも新しい志を持った方と商品が登場している。5年ほど前に出会った津田瑞苑の木の器は、地球だけでなく、「ヒトに優しい」というコンセプトで世に新たなメッセージを伝えようとしている。もともと林業を営むご主人が、林業で売り物にならない木やそれまで廃棄していた部分の木を使って、完全手作りで器づくりを始めた。「もったいない」の精神から発意したという。
 農薬や漂白剤を一切使っていないヒノキやスギの木で、赤ちゃんでも安心して使える器を独自の製法で作っている。木材をコーティングする独自のガラスウッドコーティング剤は、塗装面にガラス質の膜をつくる無溶剤コーティング剤で、有 溶剤を含まない。微生物・カビ菌の培養物や鼻炎・アレルギーを引き起こす原因となる成分がないので、環境にもヒトにも優しいのだという。
 また、材料成分が水やお湯に溶け出さないから安心で、かつ透気性・透湿性があるので、ヒノキの香りがし、木の呼吸を妨げないのだとか。木の器を、ヒノキなどの自然の木の香りをできる限り損なわず、使う私たちに届けてくれるのは嬉しい。また、用途によりヒノキの香りがない方が良い場合にはコーティングを多めに塗り重ねるのだそうだ。お料理と同じく、器もテイストの調整ができることに感じ入った。
 また、このガラスコーティング剤を使った器や調理器具には、ごはんなどモチモチした食材もくっつきにくい。しゃもじやお茶碗にご飯がくっつかないから、快適にご飯をよそったり、食したりできるのだ!

守る器

 もうひとつ、薬草の六次産業化に取り組んでいるポニーの里ファーム(奈良県)が、生薬に使われるキハダの木を使った器づくりに挑戦している。キハダの樹皮からとれる黄檗(おうばく)は、1300年前から胃腸薬等に使われる生薬として古くから日本で親しまれていた。しかし近年、安価な外国産の黄檗が主流となり、国内の需要が激減。キハダ農家も高齢化が進み、事業をたたむ人があとを絶えない。失われつつある日本の文化を守りたい、国内でキハダ栽培に取り組む農家を増やしたいという思いで、廃棄されていたキハダの芯材を活用するプロジェクト「Re;KIHADA」がスタートした。

器が大きい!

 そんな、ヒトやモノ、文化を大切にする想いが器からメッセージとして伝わってくる。美味しいものを美味しくいただくという器の本来の役割に加えて、時代や作り手によって新しく創られた様々な思いやメッセージも、器が作り出す“美味しい”の一つになっていきそうだ。食育の大切な要素のひとつとして「器」が担う役割も大きくなるに違いない。

海豪うるる プロフィール

青山学院大学卒。
15年以上にわたり、各種の家庭料理を研究。
食ともに、ヴァイオリン、陶芸、茶道など多彩な趣味を生かし、《五感で味わう彩食レシピ》を提案している。
また、食は年齢、性別、国籍を問わず、誰にも等しく必要で極めて身近なもの―そんな食を「万国共通の言語」のように捉え、食を通して世界各国の人とつながることを目指している。時には、《食》と、教育や政治、科学、音楽、映画など様々な分野の間をクロスオーバーしつつ、「美味しく、楽しい」という気持ちを生み出す活動を展開している。
郷里・奈良県の依頼で「奈良県観光産業活性化推進会議」委員も務め、現在は「奈良市観光大使」。
著書に、『本場の人気バル直伝!ピンチョスレシピ』、脳科学者の茂木健一郎氏との共著『脳を幸せにするレシピ』(いずれもPHP研究所)がある。
URL: http://www.ururu-ururu.com
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