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第90回
2017年3月1日更新

「コーヒーの今」


サードウェーブコーヒー

 今、巷ではサードウェーブ(第3の波)コーヒーと呼ばれるコーヒー文化が注目を浴びている。豆を厳選し、ハンドドリップで一杯ずつ丁寧にコーヒーを淹れるスタイルが世界中でトレンドとなっている。
 コーヒーのトレンドを読み解くと、19世紀後半から1960年代まで続くコーヒー普及期をファーストウェーブ(第1の波)と呼ぶ。その後、流通や保存技術の発達、インスタントコーヒーの登場などにより、家庭にもコーヒーが普及する。安価にコーヒーを飲めるようになる一方、品質の低下も招いた。そこでおとずれたのがセカンドウェーブ(第2の波)だ。―「もっと美味しいコーヒーを」と、スターバックスなどの“シアトル系コーヒー”と称される専門店が登場した。お客に豆の産地を意識されたり、店舗内で読書やパソコン仕事をすることを提案したり、カフェラテなどのアレンジしたコーヒー飲料を揃えることで人気となり、世界に新しいコーヒー文化を築いた。

コーヒーの“今”

 そんな中、コーヒーを単に嗜好品として捉えるのではなく、ワインやチョコレートなどのように、いわば“芸術的な解釈”で楽しもうというのがサードウェーブコーヒーだ。店は、豆の産地や品種、その風味に徹底的にこだわり、飲み手にそれが伝わるように淹れ、説明も尽くす。そんなサードウェーブコーヒーの今を表す味わいは、浅煎りで豆の風味や特性を生かしたコーヒーだそうだ。これを“スペシャルティコーヒー”と呼び、爽やかな酸味を持ちながらも、甘さの余韻も残る味は、「コーヒーは苦いから」と敬遠する方々にも、新たな扉を開いているようだ。
 スペシャルティコーヒーの魅力を構成するひとつでもあるフレーバーの種類は、スパイス、ナッツ、チョコレート、フルーツ等があり、フルーツの種類としてもシトラス、グレープ、ベリーなど多彩だ。ワインのようにフレーバーを確かめながら楽しめる。口にすると、例えばドライ・ベリーなどをブレンドしたのではないかと思うほどの風味を感じる。
 スペシャリティコーヒーは、上質な豆の産国、生産地、処理方法が明確になっていて、ブレンドされていない「シングルオリジン」で味わうことで、ワインのようにその地域ごとに異なる風味や味わいを楽しむことができるのも魅力だ。

コーヒーのもう一つの“フレーバー”?

 さて、コーヒーを口にしたときに「美味しい」と感じるのはなぜか? そもそも、「美味しい」とは、とても不思議な感情だ。舌での味わいだけでなく、香りや食感や音など五感を使って「美味しい」に行きつく。前言を覆すようだが、スペシャリティコーヒーを使ったカフェラテでなくても、瓶に入った昔ながらのコーヒー牛乳が美味しく感じることも多々ある。子どもの頃に温泉や銭湯などに行って、湯上りに飲んだ自動販売機のコーヒー牛乳の美味しさの記憶が作用している。人間には《想い出》というスペシャルなフレーバーが脳内にある。
 コーヒーには記憶や想い出を残しやすい“フレーバー”が、他にもあると思う。それは、豆のフレーバーを引き出したり、淹れたコーヒーを頂いたりするカップや道具だ。それに、飲む空間までもが含まれるだろう。イタリアのエスプレッソマシンなどは最たるもので、芸術家たちがデザインを手掛けている。パリのカフェはそれぞれそれの店自体に味わいがある。ニッポン風に言えば「茶器は美しい」のだ。そして美味しいお茶を味わい、楽しみ、その時を豊かにするのに欠かせないものでもある。古今東西で、時として茶器が芸術の対象にもなるところも興味深い。コーヒーは道具と一体となり人の記憶となり文化に溶け込んでいくのだろう。

一杯のコーヒーから「過去と未来」を味わう

 最近、面白いコーヒーの飲み方を楽しんでいる。茶筌(ちゃせん)の持ち手が長くなったマドラー茶筌でコーヒーを淹れている。茶筌は日本の茶文化の中で、道具でありながら芸術品として受け継がれてきた。その製作は一子相伝で伝えられ、竹を薄く均等にさばいた茶筌の技術は日本が誇るすばらしいものだ。その茶筌を使ってコーヒーを淹れる。繊細で細やかな泡が瞬時に立つので、カフェラテなどのアレンジコーヒーに新たな味わいを与える。
 コーヒーの魅力は、地球と歴史、文化の中で今の「美味しい」を追求する奥深さや知的さだろう。豆の生産から焙煎、淹れ方に留まらず、栽培方法や環境保全への配慮などなど、一杯のコーヒーには、過去と未来が詰まっている。そこに向き合い、コーヒーの「美味しい」を知ることは、自然はもちろん、社会や文化を味わいつくすことにつながっている。

海豪うるる プロフィール

青山学院大学卒。
15年以上にわたり、各種の家庭料理を研究。
食ともに、ヴァイオリン、陶芸、茶道など多彩な趣味を生かし、《五感で味わう彩食レシピ》を提案している。
また、食は年齢、性別、国籍を問わず、誰にも等しく必要で極めて身近なもの―そんな食を「万国共通の言語」のように捉え、食を通して世界各国の人とつながることを目指している。時には、《食》と、教育や政治、科学、音楽、映画など様々な分野の間をクロスオーバーしつつ、「美味しく、楽しい」という気持ちを生み出す活動を展開している。
郷里・奈良県の依頼で「奈良県観光産業活性化推進会議」委員も務め、現在は「奈良市観光大使」。
著書に、『本場の人気バル直伝!ピンチョスレシピ』、脳科学者の茂木健一郎氏との共著『脳を幸せにするレシピ』(いずれもPHP研究所)がある。
URL: http://www.ururu-ururu.com
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