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第82回
2016年7月4日更新

夏こそカレー


 夏を思わせる暑さを感じ始めると、「カレー」の季節だなと思う。汗をかきながら、カレーを味わいたい衝動に駆られ、カレーの季節・夏が今年もやってきたことの喜びを噛み締める。
 私たち日本人の食卓には、一年を通してカレーが登場し、独自のカレー文化を創ってきた。
 日本人でカレーについてのもっとも古い記録を残しているのが福沢諭吉だという。福沢諭吉が1860年に出版した「増訂華英通語」という辞書の中に、英語の「curry」に「コルリ」という発音が記されている。しかし、彼が実際にカレーを食べたかどうかはわからない。
 その後、日本人で実際にカレーを食べたという最も古い記録を残しているのが、1871年国費留学生として渡米した山川健次郎だ。米国へ向かう船の中で船酔いに苦しんでいた山川氏が、船内で出される西洋料理が口に合わず、食欲不振の中、なんとか食べられたのがカレーライスだったのだとか。
 そして、日本で初めてのカレーのレシピは、1873年に発売された「西洋料理通」(仮名垣魯文(かなかきろぶん)著)と「西洋料理指南」(敬学堂主人(けいがくどうしゅじん)著)に記されている。
 これらに記載のレシピには、カレー粉で味付けし、小麦粉でとろみを出すと書かれている。ジャガイモやニンジン等の定番野菜は入っていない。お肉は、「西洋料理通」では牛と鳥と羊を、「西洋料理指南」では鶏とエビ、タイ、カキ、赤ガエルを使っている。カレー粉と小麦粉が使われていることから、カレーがインドのものではなく、西洋料理として日本に伝わったとされている。つまり、日本のカレーのルーツはインドにはない。なぜならばインドでは日本のように小麦粉でとろみをつけないからだ。

カレーの進化と発展

インドカレーのスパイス
 ちなみに、カレー粉はイギリスで生まれた。インドがイギリスの植民地であったことから、総督がカレーレシピを自国で紹介したり、スパイスを持ち帰ったりした。しかし、スパイスの扱いに慣れていないイギリス人のために、簡単に取り扱えるカレー粉がイギリスで誕生することとなる。日本でも使われるカレー粉は、様々なスパイスを混ぜたもので、当然ながらインドに“カレー粉”はない。
 初めてのカレー粉は18世紀末〜19世紀初期頃にイギリスのC&B(クロス・アンド・ブラックウェル)社から発売されたと言われている。カレー粉を英国の食文化に根付いているグレービーソースにまぜると、程よいとろみの英国風カレーとなる。だから、日本のとろりとした家庭用カレーは、インドからではなく西洋のカレーから伝わったとされる。
 日本では、明治以降カレーが一般化することとなり、客船や食堂でカレーが供され普及する。そして、大正時代には、広く一般に食べられるようになった人参やジャガイモがカレーの中に入り始める。しかし、国民食と言えるほどに普及したのは、固形ルーの誕生によるところが大きい。
 1960年にハウスから「印度カレー」、グリコから「ワンタッチカレー」が発売される。当初硬い固形ルーを削りながら使っていたが、ワンタッチカレーは現在のものと同じように、柔らかく溶かしやすい画期的な製品として登場した。1963年、ハウスから「バーモントカレー」が発売されて現在に続く。60年代には、他にも、現在もおなじみのハウス「ジャワカレー」(1968年)や、大塚食品から世界初のレトルトカレー「ボンカレー」(同年)が発売され、1971年にはハウスからもレトルトの「ククレカレー」が発売されて、ともに大人気となった。
 海外でもこの日本の固形ルーを使った“日本風カレー”に注目が集まり、近年は、海外に日本のカレー専門店が進出したりしている。固形ルーもまた、日本独自の進化と発展を遂げてきたのだ。

健さんとカレー、夏カレーで元気に!

 夏は暑くて、冷たいものを食べがちだったり、キッチンが熱くなるので煮ものを控えたりという方も多いかもしれない。しかし、「夏こそカレー」ということで、短時間で出来るカレーを紹介しよう。
コンロで炒めてカレー作り
以前、料理家集団「カレー番長」との仕事で、“炒めるカレー”というものを作った。肉、野菜など好みの食材を炒め、そこに、箱に記載されている分量の固形ルーを、分量のお湯で溶いたものを流し入れ、ひと煮立ちすればすぐにとろみが出て、出来上がりというものだ。まさに、材料を刻み始めてから10分で完成するカレー! これならば、暑い夏の加熱調理も苦にならないはずだ。カレーをつけだれに麺でさっぱりいただくのもいい。
 俳優の故高倉健さんが、映画ロケの現場で炊き出しのカレーを頬張りながら、「カレーはいいよ!これさえ食べてれば間違いない。うまいし腹も壊さないよ!」と語っていたのを見たことがある。食欲が落ちがちな夏はカレーで食欲を沸き立たせて、一緒にたっぷりの野菜と、ビタミンBが豊富な豚肉などを摂れば確かに夏バテにも良い。さすがカレー好きの健さんだ!
 「夏こそ、温かいものを!」という点でもカレーを推したい。エアコンや冷たいものを食べすぎて冷えた体や内臓をいたわってくれる。
 今夏は猛暑との予報が出ているが、夏バテ知らずで、ぜひ暑い夏を楽しもうではないですか!

海豪うるる プロフィール

青山学院大学卒。
15年以上にわたり、各種の家庭料理を研究。
食ともに、ヴァイオリン、陶芸、茶道など多彩な趣味を生かし、《五感で味わう彩食レシピ》を提案している。
また、食は年齢、性別、国籍を問わず、誰にも等しく必要で極めて身近なもの―そんな食を「万国共通の言語」のように捉え、食を通して世界各国の人とつながることを目指している。時には、《食》と、教育や政治、科学、音楽、映画など様々な分野の間をクロスオーバーしつつ、「美味しく、楽しい」という気持ちを生み出す活動を展開している。
郷里・奈良県の依頼で「奈良県観光産業活性化推進会議」委員も務め、現在は「奈良市観光大使」。
著書に、『本場の人気バル直伝!ピンチョスレシピ』、脳科学者の茂木健一郎氏との共著『脳を幸せにするレシピ』(いずれもPHP研究所)がある。
URL: http://www.ururu-ururu.com
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