HOME一般のお客様向け情報>食育コラム

第107回
2018年 8月1日更新

誕生日ケーキ


夏のチョコレート

 「暑くてチョコレートがとけちゃった〜」
 日本の夏は暑い。今年もまた暑い。それなのでこの言葉の呪縛になり、日本の夏はチョコレートも夏休みという感がある。実際に売り上げのデータなどでもそれは現れているようだ。どうやら、暑さで溶け気味のチョコレートが、つまむ指にまとうことを敬遠する心理が働くらしい。暑さに加えて湿度の高い日本の夏では、お口の中も濃厚というより、爽やかにありたいということもあるかもしれない。
 しかし、日本の大手菓子メーカーの対策は素晴らしい。「ポッキー」に代表されるようにチョコレートに直接触れることなく楽しめる商品や、編み目にして軽くて爽やかな味わいにしたものなど、創意工夫が満載だ。誤解を恐れずに表現するなら、これらのチョコレート菓子は工業製品として優れているし、ユーザービリティ(使用性)として優れていると言える。

クラフトチョコレート

 そんな大手メーカーのチョコレート菓子が存在感と実力をみせている日本国内だが、バレンタインの盛り上がりも手伝って、主に欧州のショコラティエや老舗の高級チョコレート店が数多く出店をするようになっている。欧州ではチョコレートが王室御用達だったりもする。チョコレートの文化の歴史と発展が日本とは異なるのだ。
 もう一方のチョコレート大国であるアメリカでは、チョコレートを老若男女が手軽に楽しむものとして進化、発展させてきた。方向性としては日本の大先輩だ。しかし、そのアメリカで「クラフトチョコレート」と呼ばれるチョコレートの文化が芽吹き花咲いている。「クラフト」というと、日本では「クラフトビール」という言葉が市民権を得ているが、そのクラフトビールの思想や作り方などをチョコレートに持ち込んだものと理解してもらうのがよい。職人(クラフトマン)のプライドとものづくりの精神で、素材や製法、売り方などにまでこだわりを込めて生産するチョコレートである。多くのIT企業が誕生し、食文化のトレンドが生まれるアメリカの西海岸が発祥だ。

日本でも芽吹くクラフトチョコレート

 「クラフトチョコレート」が日本に上陸をしている。2016年に日本にオープンしたそのお店のチョコレートは、カカオ豆とオーガニックシュガーのみが原料だ。驚いたのは社員にチョコレートづくりの経験者がいないということ。見様見真似から独自の勉強、クラフト文化のコミュニティーの中のネットワークでチョコレートづくりを学んできたという。彼らがこだわる「Bean to Bar(ビーントゥバー)」とは、「カカオ豆(ビーン)から板チョコ(バー)になるまで」という意味の通り、豆の買い付けから、選別、焙煎など製造の全てを自社の工場で行うチョコレート製造工程のこと。素材となるカカオ豆選びと買付から始まり、自社の工場に到着した豆は、欠けたものや大きさが異なるものなどを丁寧に取り除く。
 最初の工程はロースティングとなる。「いい豆を使っているので浅煎りでやっている」という。煎り時間は短いもので10分から15分、温度は75度〜100度超えたくらい。同じ品種や産地の豆でも、ロースティングの火加減によって風合いをコントロールできるそうだ。熱は厳禁と思われがちなチョコレートの誕生の第一歩が、火加減に左右されるというのは面白く、炎の偉大さを感じる。
 火加減によるローストの塩梅は数値化している。クラフトというと職人技というイメージだが、安定した良質の材料の仕入れから作る工程、コストのコントロールから売るところまで、IT発祥の地からの新生メーカーらしく、データやITビジネスの考え方が導入されているのだ。ビジネスとしても学ぶべき点も多いし、日本でも様々に芽吹きそうだ。

食を知り、味わいを楽しむ

 彼らはチョコレートの奥深さを食べ手に伝えることも大切にしている。製造方法や材料の情報を説明し、カカオ豆の産地や種類によって味わいも様々であることをテイスティングなどで体感させてくれる。例えば、同じレシピでつくっても、豆によって味わいの異なるブラウニー(平たく焼いた濃厚なチョコレートケーキ)ができる。
 チョコレートは、発酵させたカカオ豆からできるので、発酵食品の仲間であるとも言える。日本人の好みは、味わいに発酵感の強く出た、味噌や醤油のようなフレーバーも感じるチョコレートだという。チョコレートの好みに、伝統的な食文化の特徴が色濃くでていることが感慨深かった。
 味わいによっては、日本の夏での美味しいくいただける味わいのチョコレートもあるそうだ。また、白く、甘酸っぱいカカオフルーツは、スムージーで提供される。カカオニブはサラダやグラノーラと一緒にいただくのも良い。この夏は、あえて、“夏でもチョコレート!”と、楽しんでみてはいかがだろう。

海豪うるる プロフィール

青山学院大学卒。
15年以上にわたり、各種の家庭料理を研究。
食ともに、ヴァイオリン、陶芸、茶道など多彩な趣味を生かし、《五感で味わう彩食レシピ》を提案している。
また、食は年齢、性別、国籍を問わず、誰にも等しく必要で極めて身近なもの―そんな食を「万国共通の言語」のように捉え、食を通して世界各国の人とつながることを目指している。時には、《食》と、教育や政治、科学、音楽、映画など様々な分野の間をクロスオーバーしつつ、「美味しく、楽しい」という気持ちを生み出す活動を展開している。
郷里・奈良県の依頼で「奈良県観光産業活性化推進会議」委員も務め、現在は「奈良市観光大使」。
著書に、『本場の人気バル直伝!ピンチョスレシピ』、脳科学者の茂木健一郎氏との共著『脳を幸せにするレシピ』(いずれもPHP研究所)がある。
URL: http://www.ururu-ururu.com
一般のお客様向け情報
くらしの情報