HOME一般のお客様向け情報>食育コラム

第83回
2016年8月1日更新

日本の薬草

キハダの樹皮を裂いて煮る

日本の薬のルーツ

 日本書紀には、初の女性天皇の推古天皇が611年に奈良県宇陀地方で薬猟したという記述がある。756年の聖武天皇崩御七七忌には、大仏様に21の漆櫃(うるしひつ)に収められた60種の薬が献上され、そのことを記録した献物帳は「種々薬帳」と呼ばれ、正倉院に現存している。日本の薬のルーツは、飛鳥時代、奈良時代の奈良にみられる。
 漢方医療で著名な慶応義塾大学医学部の渡辺賢治先生は、「漢方は日本独自の伝統医療である」とおっしゃる。多くの方はそう聞くと、「えっ、中国のものではないの?」と驚く。漢方は、確かに古代中国にその起源をたどることができるが、日本風にアレンジされた日本独自の医学だという。長い歴史の中で、日本人のデータを積み重ね、日本で新たに体系化したのが漢方だそうだ。そう聞くと、食で言えば日本独自の進化を遂げたラーメンやカレーが思わず頭に浮かんだ。
 ちなみに、中国で「漢方」といっても通じないらしい。漢方という名称は、日本に西洋医学が紹介され、蘭方医学が賞賛された際に、従来医学と区別するため日本で生まれた名称だ。

世界から注目される日本の伝統医療・漢方

少子高齢化時代、予防医学の観点からも世界が日本の伝統医療である漢方に注目をしている。日本は世界一の長寿国であるが、健康でいられる健康寿命となると実際の寿命と10歳以上の開きがある。増加する日本の医療費の点からも予防医学は現代の重要なテーマである。細分化される傾向にある西洋医学が木を見るのだとすると、漢方医学は森を見ると例えられる。「病をみるのではなく、人をみる」「食べるものはすべて薬」という漢方の考え方や、病気を治す人間の潜在能力を最大限に“引き出す”漢方の医療の考え方は、現代人の私たちに必要な“感覚”のように思う。便利なものに囲まれて、本来人間が持っていた能力が退化してしまっている部分はないだろうか。生命を繋ぎ、守るものである食や薬というものを私たちはもっと知ってもよいのではないだろうか。

キハダを切る

日本の薬草

 先日、くすりの町として知られる飛鳥地方高取町で、漢方の生薬となる「トウキ」や「キハダ」がある畑や山に行ってきた。晴れでも雨が多いこの時期は土が柔らかくなっているので、長靴を履いてくるように言われた。到着するとヘルメットを渡された。まさか、滑落の危険性でもある山の中なのかと驚いた。草を抜いた程度の道を進んで山の中へ入っていくと、地面がぬかるみ、長靴じゃないと大変だということをすぐに理解した。
 キハダを採るには、当然のことながらまず木を切る。木の高さや重量感は、下から見上げてもなかなかつかめない。見て感じている以上に大きく高さがある。倒れる方向を間違えれば大怪我や命に関わるかもしれない。ヘルメットを渡された意味が分かった。
黄色いキハダの内樹皮
 切ったキハダの木の皮を剥ぐと、まるで絵の具の黄色のような鮮やかな色が現れる。触ると手が真黄色になり、香りも感じる。黄色い樹皮の部分を細かく手で裂いて、煮てから漉す。漉した液をさらに煮詰めるとプリンのキャラメルのような濃い色ととろみがでる。漢方の世界でも炎が活躍する。それをワセリンと混ぜるとキハダの軟膏となる。お腹や目薬等にも使われる万能選手のこのキハダ、その昔忍者やマタギというのは、キハダを知らないとなれなかったらしい。つまり、忍者になるための必修科目だった。怪我をする危険のある彼らにとって、身を守るために必要なものだったのだ。

漢方は現代の教養、日本の薬草を日常へ

 漢方は現代の教養のように思う。何も、漢方の資格をとるとか、そういう難しいことではなく、漢方に興味を持つことは、自然を知り、病を知り、自分を知ることなのだと感じたからだ。超高齢化社会で、また便利なものに囲まれているからこそ、人が人として健康に生きていくための必須科目と思う。キハダやトウキのある山や畑に出向き、自然と向き合うことで、本来人間が持っているべきはずの能力をいかに普段使っていないかを知るところともなった。
 最近では薬草の葉や茎などを食用に活用する動きもある。お洒落な“和ハーブ”、“薬草茶”などの商品も登場しているので、漢方は敷居が高いという方にも馴染みやすい。例えば、漢方では代表的な婦人薬として使われるトウキも、漢方の生薬となる根の部分ではなく、葉を食用に活用するという取り組みも活発化している。トウキ葉は、セロリに似た香りと味でお料理のアクセントにとても良い。細かく刻んでパセリの変わりにスープや麺料理にトッピングしたり、細く切って、サラダに入れたりするとても合う。豊かな香りと程よい苦味がある葉は、果物とも相性が良い。オレンジやイチジクなどに、お好みの葉物野菜を合わせ、生ハムを盛るようなサラダにも最適で女性には嬉しい。
 ヨモギや生姜、桂皮(シナモン)、ウコン(ターメリック)等、馴染みがあるものから薬草への興味をスタートさせると良いように思う。手軽に美味しく日常へ取り入れ、健康を楽しもう!
トウキ葉とイチジクと生ハムのサラダ

海豪うるる プロフィール

青山学院大学卒。
15年以上にわたり、各種の家庭料理を研究。
食ともに、ヴァイオリン、陶芸、茶道など多彩な趣味を生かし、《五感で味わう彩食レシピ》を提案している。
また、食は年齢、性別、国籍を問わず、誰にも等しく必要で極めて身近なもの―そんな食を「万国共通の言語」のように捉え、食を通して世界各国の人とつながることを目指している。時には、《食》と、教育や政治、科学、音楽、映画など様々な分野の間をクロスオーバーしつつ、「美味しく、楽しい」という気持ちを生み出す活動を展開している。
郷里・奈良県の依頼で「奈良県観光産業活性化推進会議」委員も務め、現在は「奈良市観光大使」。
著書に、『本場の人気バル直伝!ピンチョスレシピ』、脳科学者の茂木健一郎氏との共著『脳を幸せにするレシピ』(いずれもPHP研究所)がある。
URL: http://www.ururu-ururu.com
一般のお客様向け情報
くらしの情報