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第113回
2019年 2月1日更新

おいたち?


味のある作り手のおいたち

 「奇跡のりんご」として一躍有名になったりんごがある。青森県弘前市の木村秋則さんがつくるりんごで、農薬だけでなく肥料も使わないりんごだ。そのりんごを頂いたとき、味わいはもちろんだが、切ったりんごをそのままおいておいても茶色く色が変わらないことに驚いた。りんごを頂く時には、りんごの果肉の美しさも美味しさのうちなので、切ってすぐに頂くか、レモン汁などをかけるなど、色が変わらない工夫をしている。もうひとつ驚いたことに、木村さんのりんごには芯がないのだ。
 そもそもりんごは栽培が最も難しい作物のひとつだ。無農薬でりんごをつくるのは不可能と言われていたという。かつて青森県は日本で一番農薬が使われている県であった。そして、その農薬の三分の一がりんごで、全国生産量の4割を占める津軽地域で使われていたという。りんご農家に生まれた木村さんは、家業の跡を継いだが、農薬を使うと自分の体に湿疹ができて苦しんだそうだ。苦しみから脱出するため、無農薬栽培を試行錯誤し始める。最初は、農薬の散布回数を毎年少しずつ減らしていったけれども、減らすにしたがい虫に悩まされることになる。豊作が見込めない年を続け、4年の歳月をかけて無肥料、無農薬の農地を作っていったという。4年間の様々な実験や試行錯誤の結果、無農薬、無肥料の自然栽培にこぎついたという。実は、虫がつくのは肥料や農薬の不純物の影響で、無農薬、無肥料で栽培した木村さんのりんごには虫もつかず、腐らず、色も変わらないのだという。
木村さんという紆余曲折なおいたちを持つ個性的な人物が、これまでの常識を覆す発想の実現に向けて努力をつぎ込んだりんごの素性は、かたくななほどに優等生だ。

旬を超越した水菜のおいたち

 水菜は夏が旬だと思っている方が多い。
 シャキシャキとみずみずしい水菜は、鍋に使われるよりも、生野菜サラダに使われることが多くなったからだと思う。
でも、水菜の野菜としての旬は冬である。
 鍋に入れると美味しいことは言うまでもないけれど、夏が旬のイメージだけでなく、出荷量も旬の冬より夏が多いというから驚きだ。トラックの荷台を最適な温度に調整して、スーパーへ運んでいる農家のお話も聞いた。生産者や流通に携わる方々の努力と工夫が社会での旬を変えたのだ。
 私が子供の頃、サラダの定番といえば、キャベツとキュウリ。その後、レタスやリーフレタスなど様々な野菜が登場する。かくいう私にとっても今や水菜はサラダの定番だ。暑い夏に、暑気を払うような水菜の食感は最高だ。
 植物としても旬を越えるにいたった水菜のおいたちは、食への嗜好や情熱と技術の双方が高見で交差する食文化の力をよく現している。

ダイバーシティで輝く食のおいたち

 最近、様々な言葉を耳にする。有機栽培、減農薬、無農薬、共生農法…
作物の世界でもおいたちが多様な食べ物が登場している。作物は人間社会以上にダイバーシティ(多様性)が進展していると言えよう。
 ダイバーシティを進めつつある人間社会は、色々なおいたちの農産物から好みを見つけて楽しむという恩恵にあずかっている。料理のカテゴリーや調理方法の多様性だけでなく、食材のおいたちまでに多様性が生まれてきている状況は、今後の食の世界、食文化をどのように進展させていくのか楽しみだ。食の世界の出来事は、すぐに私たちの実生活で実感するにいたる。そこが楽しみや醍醐味でもあり、不安にもなる。日々の事が変化することに苦手な方々も多いはずだ。食育の持つ意味合いや内容はさらに広くなるだろうし、大切になってくる。楽しみも不安は表裏一体だから、事実や情報を知ることが、全てに前向きに向き合える術となるはずだ。
勉強なんていうかしこまったことでなく、料理や食材、食事を楽しむというつもりで向き合えば良い。この世の中と、その発展による多様性を楽しみ、豊かな食体験と健康的な食生活を実践していけば、私たちの“食のおいたち”は人生に輝きをもたらすはずだ。

海豪うるる プロフィール

青山学院大学卒。
15年以上にわたり、各種の家庭料理を研究。
食ともに、ヴァイオリン、陶芸、茶道など多彩な趣味を生かし、《五感で味わう彩食レシピ》を提案している。
また、食は年齢、性別、国籍を問わず、誰にも等しく必要で極めて身近なもの―そんな食を「万国共通の言語」のように捉え、食を通して世界各国の人とつながることを目指している。時には、《食》と、教育や政治、科学、音楽、映画など様々な分野の間をクロスオーバーしつつ、「美味しく、楽しい」という気持ちを生み出す活動を展開している。
郷里・奈良県の依頼で「奈良県観光産業活性化推進会議」委員も務め、現在は「奈良市観光大使」。
著書に、『本場の人気バル直伝!ピンチョスレシピ』、脳科学者の茂木健一郎氏との共著『脳を幸せにするレシピ』(いずれもPHP研究所)がある。
URL: http://www.ururu-ururu.com
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