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第101回
2018年 2月1日更新

香りの美味しさ


香りの役割

 料理を五感で味わう中で、『香り』の役割は大きい。料理が運ばれてきた時、私たちは「わぁ、いい香り!」と何気なく口にする。舌で味わう前に、香りによってお料理への期待が増し、高揚する。香りの役割は、思っている以上に大きいように思う。
料理を味わうという行為において、舌の味わいと同じくらい深かく豊かなものだ。子どもの食育の授業では、鼻をつまんでグミを食べ、何味のグミか当ててもらうということをする。鼻をつまんで、いくら噛んでも、口をモグモグしても、ぶどう味のグミなのか、りんご味なのか、まったくわからない。子どもたちも「えーっ?」「わぁー!」と大騒ぎをする。もし、まだやったことがなければぜひ試してほしい。香りと味が渾然一体であることがわかるはずだ。

香りの調理器具の進化系

砕くことで香りを立てる調理器具
 先日、「香りを食するデザイン調理器具」というものを体験する機会があった。私たちが鼻腔を通して感じる香りには、「Orthonasal aroma(オルソネーザルアロマ:鼻先香、前鼻腔性香気)」と、食べ物を口に入れて噛んだときや飲み込んだ後に喉の奥から鼻に抜けて感じる「Retronasal aroma(レトロネーザルアロマ:口中香、後鼻腔性香気)」の2種類があるそうだ。つまり、香りは舌で味を感じるのとほぼ同時に、味覚と一体の感覚となって「味わい」として知覚される。そのため、香りの質や強さが食べ物の風味や美味しさを左右するという。そこで、これまでになかった発想で調理器具を開発したというのが、右の写真のような見たこともない形の調理器具だ。香りを最大限に引き出せるように、山形県在住の職人が微妙な曲線を描いた手作りの受け皿(臼)を作り、さらにハンマー部分の表面の美しいヘアラインは、金属加工の街工場が多い東京都大田区の匠の技で実現した。この器具は、食材を簡単に砕き、香るピークとされる「砕いてから2分以内」に、料理に使い、食することができるという機能を重視したという。

炎と香の関係

イノシシのロースト
 香を引き出す調理方法は、食材を砕くだけではない。簡単に香りを出す方法として、「あぶる」という方法がある。身近なところで、海苔は裏と表を、さっと火であぶっておにぎりにすると格段に美味しくなる。さらに香りといえば、「燻製」という調理法がある。今では、チーズや魚を家庭でも手軽に燻製にして楽しむファンが増えた。燻製はまさに桜木のチップをいぶすなど、まさに「炎あっての香り」だ。印象深い逸品では、燻製した黒胡椒をたたき、イノシシのローストにかけていただいた経験がある。スパイシーかつ芳醇な黒胡椒の香りで香ばしいイノシシ肉にさらなる奥行き感がでていて驚いた。炎が引き出した肉の旨味と、炎を活用して燻製した胡椒の魅惑の味わいの変化が織りなす、まさしく《味と香りが混然一体となった》美味だった。

香りの未知なる世界へ

ゆで上げたヴェスヴィオ
 そのイノシシ料理の美味をつくり出したのは、山形の地元の旬の食材を使ったイタリア料理で高い評価を得ている奥田政行シェフである。シェフは食材の持ち味を最大限に引き出す調理にこだわっている。その中でも香りを生かした独自の調理法で「香りの料理」を提供している。ソースをなるべく使わずにシンプルに食材の持ち味の組み合わせで、料理の魅力を追求する奥田シェフが、「香りを食するデザイン調理器具」を使って考案した料理をフルコースでいただいた。どれもシンプルに焼いたり、フリットにしたりしたものに、つぶしたてのナッツやスパイス、野菜を合わせていただく。
 例えば、パスタ料理は、お皿には白いパスタのみが運ばれてくる。別途提供されたバジルとクルミ、カシューナッツ、フライドガーリック、グラナパダーノチーズを好みの加減で砕いて、パスタの上にトッピングしていただく。調理器具が進化系ならば、お料理もこれまで味わったことがない進化系のバジルソースパスタだ。つぶす毎に食材の香りがたち、口に入れると、それぞれのナッツやハーブなどの芳香が鼻腔を抜ける。舌の味わいと合わさり、まさに「香るお料理」となる。
料理の中の香りとなると未知なる部分は、とても奥深い。香りを引き出す新しい調理器具、意欲的な料理人、食材や炎などなど、「香り」と「味」の二重奏が奏でる美味しい世界の未来が、今後ますます楽しみだ。

海豪うるる プロフィール

青山学院大学卒。
15年以上にわたり、各種の家庭料理を研究。
食ともに、ヴァイオリン、陶芸、茶道など多彩な趣味を生かし、《五感で味わう彩食レシピ》を提案している。
また、食は年齢、性別、国籍を問わず、誰にも等しく必要で極めて身近なもの―そんな食を「万国共通の言語」のように捉え、食を通して世界各国の人とつながることを目指している。時には、《食》と、教育や政治、科学、音楽、映画など様々な分野の間をクロスオーバーしつつ、「美味しく、楽しい」という気持ちを生み出す活動を展開している。
郷里・奈良県の依頼で「奈良県観光産業活性化推進会議」委員も務め、現在は「奈良市観光大使」。
著書に、『本場の人気バル直伝!ピンチョスレシピ』、脳科学者の茂木健一郎氏との共著『脳を幸せにするレシピ』(いずれもPHP研究所)がある。
URL: http://www.ururu-ururu.com
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