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第87回
2016年12月1日更新

食欲の秋を彩る“ビーフ(牛肉)”


百花繚乱!

 師走に入ると、湯気を前にホッとしたり、湯気を挟んでポッとしたり、湯気を囲んでニッコリしたりと、いずれにしても心温まる食事の機会に多く恵まれる。言わずもがな、日本の冬の食文化「鍋料理」をいただくことが多くなるからだ。
 最近の鍋料理のバリエーションは、まさに百花繚乱。レシピ紹介サイトなどで検索すると3万を超えるレシピにヒットする。お店でいただく鍋だって、よせ鍋、水炊きなど伝統的なものから、薬膳鍋、豆乳鍋、カレー鍋などなど和洋中の枠を超えた創作鍋も多数ある。それほどに日本人に愛され、必要とされているお料理なのだ。

鍋のはじまり

 そもそも鍋料理の起源は、土器が生まれた縄文時代に遡る。
 鍋の誕生で、硬い食材を煮て食べられるようになった。安全に食べることができるようにもなり、栄養摂取面でも格段に向上した。
 鍋料理が私達の食文化として根付くきっかけとなるのが江戸時代だ。囲炉裏端で鍋に火をかけていた時代から、食卓に七輪や小鍋を持ち出すことで、鍋料理の進化が始まる。そして明治の文明開化以降、牛鍋(すき焼き)が、今につながる本格的な鍋料理普及のきっかけになる

美食と美容へ!?

 ご当地鍋は、日本全国に存在する。その中でも、鶏ガラスープと牛乳をベースに鶏肉や野菜を煮た「飛鳥鍋」は、飛鳥時代に唐から来た僧侶が寒さしのぎにヤギの乳で鍋をつくって食べていたことに由来する。飛鳥地方では、飛鳥時代のこの鍋にちなみ、牛乳ベースの鍋を飛鳥鍋としてレシピ開発や観光地での名物料理にしようとする取り組みを行っている。
 古代、牛乳は薬として食されていた。大陸から伝来した乳製品は、高貴な人々の間で、健康・美容食として珍重された。鍋を料理として工夫しはじめた起源とも思われる当時の鍋は、1300年前の“美容鍋”といってもよいのではないだろうか。
 奈良時代は、“美味しいもののはじまり”といわれている。一部高貴な人に限られていたものの、調味料が使われるようになり、食が「生きるため」から、「美味しく豊かになるため」のものとして新たな始まりを迎えた時代だ。美味しいものは朝廷とお寺から生まれている。当時、どぶろくが主体の中、清酒が生まれたのも奈良のお寺であったという説がある。大きな力を持つお寺に全国から食材が集まる。当時は数多くの僧侶たちがいたとされる奈良の正暦寺では人手も十分であった。位の高い僧は寒さしのぎにお酒を作らせ、こっそり飲んでいたという。こんなところにも“美味しい”を求めた起源がある。

完全無欠!

 現代の鍋の話に戻すと、鍋の魅力はなんといっても、沢山の種類と彩り豊かな野菜を豊富に頂けることだろう。しかも、煮込んだり、たれにつけたり、バリエーションには事欠かない。お年寄りから子供まで、体に優しく、栄養バランスのとれた食事が簡単にできる。大相撲で力士たちの強靭な体を作るのが、ちゃんこ鍋であることからも明白である。鍋から立ち上る湯気の中で煮上がる好物の食材に一人微笑むもよし、湯気の向こうの家族や仲間の顔に微笑みかけながら頬張るもよし、今年末も鍋を楽しみたいものだ。  

大切な道具である鍋について最後に触れておくと―

 様々な鍋料理を楽しめる今、口が広く、適度な丸みがある土鍋は、食材への火の入れ具合も、鍋を囲みながら食べることを考えて、理にかなっており、それになんだかあの丸みを帯びた優しい素材の感じも癒される。大人数で食べる時も、一人で食べる時も、材料が一目でどこにあるかわかるので取りやすい。大きな丸い口から覗く食材全体の彩りも鍋のごちそうだ。煮込み型の鍋ならば、ある程度キッチンのコンロで仕込んでから食卓に出して、その後卓上コンロで調理しても良い。
 「鍋の火を弱めてくれる?」「もう少し火を強くして」などという会話も、鍋を囲んで美味しいものを仲間や家族と食べようとするコミュニケーションであり、寒い冬の心を温かくしてくれるものだ。

海豪うるる プロフィール

青山学院大学卒。
15年以上にわたり、各種の家庭料理を研究。
食ともに、ヴァイオリン、陶芸、茶道など多彩な趣味を生かし、《五感で味わう彩食レシピ》を提案している。
また、食は年齢、性別、国籍を問わず、誰にも等しく必要で極めて身近なもの―そんな食を「万国共通の言語」のように捉え、食を通して世界各国の人とつながることを目指している。時には、《食》と、教育や政治、科学、音楽、映画など様々な分野の間をクロスオーバーしつつ、「美味しく、楽しい」という気持ちを生み出す活動を展開している。
郷里・奈良県の依頼で「奈良県観光産業活性化推進会議」委員も務め、現在は「奈良市観光大使」。
著書に、『本場の人気バル直伝!ピンチョスレシピ』、脳科学者の茂木健一郎氏との共著『脳を幸せにするレシピ』(いずれもPHP研究所)がある。
URL: http://www.ururu-ururu.com
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