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第81回
2016年6月1日更新

アップルパイ

弘前のアップルパイ(弘前観光コンベンション協会アップルパイガイドマップより)
 先月、青森県弘前市に行ってきた。弘前は、リンゴとサクラで有名なところだ。ゴールデンウィーク後半の5月でも、ピークは過ぎたものの、桜を楽しむことができる。約300年前に弘前藩士が京都からサクラを取り寄せて現在の弘前公園に植栽以来、様々な種類のサクラが植えられた。今ではソメイヨシノを中心に、シダレザクラ、八重桜など、約50種類2600本の桜が咲き誇る。
 200万人以上が訪れるという弘前のさくらまつりが終わろうとする頃、リンゴの花まつりが始まり、白くてかわいらしいリンゴの花を楽しむことができる。長い冬が終わりを告げて訪れた春を、地元の方がこれでもかというくらいに楽しみ、観光客をもてなして、また新たな楽しみとしているように見えた。
 青森県のリンゴの生産量はダントツの日本一で、日本のリンゴ生産量の約半分を占めている。個数にして約5億4000個、距離にすると約4万8000Kmとなり、地球1周分にあたる。その青森県の中でも生産量一位となるのが弘前市だ。日本一のリンゴの産地らしく、町にはリンゴにちなんだアート、リンゴがのった郵便ポスト、リンゴの街灯、リンゴの道路ミラー、リンゴ模様のマンホールなどがある。
巨大アップルパイギネスに挑戦する会の巨大アップルパイ
(弘前観光コンベンション協会アップルパイガイドマップより)

 地元のリンゴ農家を応援し、農業や地域の活性化を目指す活動をしているご当地アイドルが「りんご娘」だ。地元の認知度抜群というりんご娘のメンバーには、“ジョナゴールド”や“王林”というリンゴの名前がついている。リンゴ娘には、リンゴにちなんだ「りんごの気持ち」などのリンゴの歌や、「りんごのうかの少女」という映画まである。弘前の音楽会社の名前は「リンゴミュージック」、劇団の名前は「RINGOAME」だ。町おこしと言ってしまえばそれまでだが、強い郷土愛とリンゴへの誇りを感じる。

独特の進化を遂げた日本のケーキ

弘前での楽しみのひとつが、地元のアップルパイだ。ホテルからケーキ屋さんまで、様々なアップルパイのお店をまとめた「アップルパイマップ」がある。そこには、“甘味”“酸味”“食感”“シナモン”の度合いを、リンゴマーク5段階で表示してある。
 甘味や酸味はわかるのだが、“シナモン”の度合いが表示されているのに驚いた。当時の行政担当者はシナモンが苦手で、シナモンの有無の表示があったらいいのにと思っていたところ、アンケートをとると意外にも同様の意見が多かったので表示項目に入れたのだと言う。
 私が子どもの頃を過ごした1970年代には、イチゴのショートケーキはケーキ屋さんでダントツの存在感を放っていた。ふわふわのスポンジ生地に挟まれたイチゴと生クリームのケーキの国籍は不明で、日本で独自の進化を遂げたと言われている。そして今も老若男女、そして町のケーキ屋さんからホテルのラウンジまで、イチゴのショートケーキは幅広い指示を得ている。

アップルパイマップ
 アップルパイもまた、日本で独自の進化を遂げたもののひとつだろう。弘前のアップルパイマップを見てもわかる通り、アメリカのアップルパイとは見た目も、お味も、食感も全く異なる。パイでリンゴを覆った、ボリュームあるサイズのアメリカのアップルパイに比べ、小ぶりで、中のリンゴが見えるタイプのものが多い。程よくしっとりとしながらもサクサクで、リッチなバターの香りのパイ生地であるのも特徴だ。甘さも日本人好みの程よいもので、リンゴの食感や甘味を楽しめるタイプのものが日本には多いように思う。だからこそ、海外のアップルパイのようにアイスクリームなどを添えずにリンゴの味わいを楽しむのが正解だ。

魅惑のリンゴ、魅力のアップルパイ

 フランスでは、リンゴのケーキというと「タルトタタン」だろう。お砂糖とバターでキャラメリゼしたリンゴを敷き詰めてパイ生地をかぶせて焼き、食べるときには上下を逆にお皿に盛る。
偶然の失敗から生まれたというタルトタタン。リンゴをたっぷりと使い、いい色に仕上げた見た目のお洒落な佇まいもさすがフランスのお菓子だと唸らされる。フランスでは、リンゴはお酒やお菓子にはもちろんのこと、お料理にも良く使われる。チキンのソースや、お肉の横に添えられる等、火を入れて調理する。火を入れることで味わえる独特の食感や香りはたまらない。
 そんな風に古今東西でリンゴという食材の力は認められ活用されてきた。そのリンゴを存分に楽しむアップルパイは、まさにリンゴ料理の王様だろう。王様は作る過程も魅せてくれる。パイ生地がふくらみ、こんがりと良い焼き色がつく。そして、オーブンに入れる前の成形した状態とは全く異なる形に変化して完成する。そのワクワク感が楽しいのだ。ちなみにこの場でアップルパイを選んだのは、そんな過程で出来上がるアップルパイが強烈に炎を感じさせるお料理だからだ。作りあげる過程もさるもとながら、アップルパイのパイ生地のふくらみや照り、リンゴの変身には炎を感じざるを得ない。そして、炎を感じさせるお料理はどれも魅力的である。

海豪うるる プロフィール

青山学院大学卒。
15年以上にわたり、各種の家庭料理を研究。
食ともに、ヴァイオリン、陶芸、茶道など多彩な趣味を生かし、《五感で味わう彩食レシピ》を提案している。
また、食は年齢、性別、国籍を問わず、誰にも等しく必要で極めて身近なもの―そんな食を「万国共通の言語」のように捉え、食を通して世界各国の人とつながることを目指している。時には、《食》と、教育や政治、科学、音楽、映画など様々な分野の間をクロスオーバーしつつ、「美味しく、楽しい」という気持ちを生み出す活動を展開している。
郷里・奈良県の依頼で「奈良県観光産業活性化推進会議」委員も務め、現在は「奈良市観光大使」。
著書に、『本場の人気バル直伝!ピンチョスレシピ』、脳科学者の茂木健一郎氏との共著『脳を幸せにするレシピ』(いずれもPHP研究所)がある。
URL: http://www.ururu-ururu.com
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